Bisland(新潟県立万代島美術館ニュース)第20号ー13 「大地のハンター展を振り返って」
2021年の夏、「大地のハンター展~陸の上にも4億年~」を開催しました(7月3日~9月5日)。上野の国立科学博物館で開催された特別展の巡回展、つまり美術とは異なる自然科学系の展覧会です。
確かに「美術館」は「博物館」のカテゴリーに入る施設ではありますが、当館でこのような内容の展覧会を開催するのは全くの初めて。専門的な知識をもった職員も館内にはおらず、開催には正直躊躇がありました。しかし、国立科学博物館の研究員の方々が監修する学術的に質の高い展覧会であることは間違いなく、動物園がない新潟県の人たち、特に子どもたちにとって、生き物や自然環境への興味を深める貴重な機会になるだろう、と考え、巡回会場として手を挙げることとなったのです。
会期中は、夏休みと重なったこともあり、ご家族連れを中心にたくさんの方がご来館くださいました。白亜紀の巨大ワニ・デイノスクスの復元模型の迫力に圧倒されて近寄れず遠巻きに眺める小さなお子さま、学校から配布されたタブレットで標本を撮影する小学生、解説パネルをじっくりと読み込む中学生、新潟固有種のエチゴモグラ、サドモグラを見つけようとケースをのぞき込んで楽しそうに会話する親子連れ。熱心にご覧になっているお姿を会場のあちこちでお見かけいたしました。各分野の研究成果をわかりやすく学べる内容でしたので、大人からこどもまで、それぞれに驚きと新しい発見があったのではないでしょうか。中には、苦手だったはずの動物に少し興味がわいたり、身近な生き物をあらためてよく観察してみよう、と思われたりした方もいたと思います。時折寄せられる質問に一緒に悩むことしかできない時は本当に申し訳ない思いではありましたが、皆さんの反応に開催の手応えを感じることができました。
一方、展覧会を運営する中で、美術館学芸員である私にとっても、様々な発見がありました。剥製標本を輸送する際の梱包は、美術品と基本は同じでも、毛並みや羽のボリュームを損なわないような工夫がなされること。虫のような小さい生き物の標本制作や展示には驚くほど細かな手技が用いられていること。採集の時期や場所、採集者などの情報が記された標本ラベルを読むことは、絵画の額裏に貼られたラベルを読むような楽しみがあること。何より、展示に立ち会ってくださった監修者の方々から作業の合間にお聞きしたお話は、知識のない私にとっても興味深いものばかりでした。標本の展示方法、解説パネルのあり方など、美術展にも活かせそうな学びもあり、まさに「知るは楽しみなり*」という言葉にふさわしい、新鮮で貴重な経験だったと思います。*かつてNHKで放送されていた「クイズ面白ゼミナール」で、司会の鈴木健二アナウンサーが番組の冒頭に使っていた決め台詞です。若い方すみません・・・・・・)
美術の展覧会と自然科学の展覧会では、伝えるべき「知」の性質は異なっているとは思います。しかし、訪れた方が新しい「知」を得ることで、身の回りの世界を見る眼が少し変わるような、その日からほんの少し豊かな気持ちで過ごせるような、そんな展覧会をこれからもお届けしたい。初めての自然科学展開催で、いくつかの反省点や課題はありますが、「大地のハンター展」を振り返りそう感じました。
(専門学芸員 今井有)