学芸ノートB版 2023-9「開館20周年を振り返る⑥ 日本画展あれこれ」

2003年の開館以来、20年の間に万代島美術館で開催された日本画展は、年代順に以下のとおりです(出品の一部に日本画が含まれていた展覧会は他にもありますが、今回は除きました)。

①2004年3月13日~5月5日「所蔵品展 横山操と横の会の男たち」
②2005年9月10日~10月23日「名画でたどる 日本画100年のきらめき」
③2006年7月22日~9月3日「はばたく日本画─近代から現代へ―」
④2007年1月20日~3月18日「所蔵品展 日本画七変化 変わりゆく日本画」
⑤2010年2月27日~4月11日「所蔵品展 花鳥風月─現代日本画にみる自然の美」
⑥2019年1月4日~2月17日「創立100周年記念 国画創作協会の全貌展」

所蔵品展では3本の現代日本画展を開催しています。戦後、いずれの分野においても旧来の価値観が覆るなか、新たな日本画の創造に果敢に挑んだ作家として知られるのが現在の燕市出身の横山操。画業前半の斬新なモチーフによるダイナミックな大型作品、後半の水墨による表現、いずれも後世に大きな影響を与えました。県では初期の代表作をはじめ、操の作品を数多く所蔵しています。

その後に続く世代の日本画家たちが1984年に結成した「横の会」は、当時30~40代の若手実力作家が所属団体の枠を超えて集ったことが大きな話題を呼びました。会が活動を終える10年の間に発表された作品はいずれも各人がそれぞれの方法で日本画と向き合った力作揃い。数多のグループ展の中でも傑出した場として記憶に残るものでした。竹内浩一、中島千波、中野嘉之、平松礼二、米谷清和ら、この会に参加したほぼ全ての作家作品が所蔵品で網羅されています。さらに、岡村桂三郎、千住博といった現代日本画を代表する作家の作品も有しており、コレクションによって戦後日本画の流れをたどることができるのです。

3つの所蔵品展では、横山操にはじまる彼ら戦後から現代の日本画家たちの作品を一堂に会し、その魅力を伝えることを目指しました。大画面の迫力、モチーフの意外性、岩絵具や箔などの多彩な画材による表現など、展覧会に足を運んでいただいた方には、日本画への関心のあるなしに関わらず、驚きと発見に満ちた新鮮な体験をしていただけたと思います。

 

 

さて、次に企画展を見ていきましょう。私が長岡の近代美術館から当館に異動したのが2005年。一番はじめに担当した展覧会が「名画でたどる 日本画100年のきらめき」でした。国内屈指のコレクションを誇る京都国立近代美術館から作品を借用し、明治から戦後まで、およそ100年にわたる日本画の歩みをたどりました。

ポスター・チラシには上村松園の《舞仕度》を使用して華やかなものにし、好評をいただきました。会場は竹内栖鳳、横山大観からはじまり、佐渡出身で京都画壇を代表する作家となった土田麦僊、上越出身でこちらは東京画壇の重鎮となった小林古径、他にも安田靫彦、前田青邨、速水御舟らの作品、締めくくりは平山郁夫、加山又造の六曲一双屏風が巨大な壁面ケースの隣同士に並ぶ、今思い返してみてもとても贅沢な展示内容となりました。

 

 

翌2006年には、長野県の佐久市立近代美術館の所蔵品で組み立てた「はばたく日本画」を開催しました。佐久市出身の故・油井一二氏(株式会社美術年鑑社初代社長)が50年余りにわたり収集した近現代の日本美術作品を元にしたコレクションは下村観山、川合玉堂から東山魁夷、杉山寧、高山辰雄ら戦後作家の大御所、さらには福井江太郎といった若手作家の作品も網羅されており、前年の展覧会から、さらに現在へと続く日本画の流れを見ていただくことができました。

ポスター・チラシには横山操の《雪原》と、中村貞以の《待つ宵》を使用。貞以は大阪の画家で、関東ではあまりなじみのない作家かもしれませんが、艶やかに着飾った舞妓さんがお座敷を待つ間に卓球をしているこの作品に私は心を奪われ、図録の表紙にも同作品を使用。装丁や用紙の選択に少し凝ってみることができたのも、楽しい思い出です。

 

以上二つの企画展では、出品リストを組み立てる段階から相手館の学芸員と関わりました。同年代の担当同士で意気投合。展覧会以外のよもやま話もはずみ、自館とは地域も規模も異なる館の、リアルな状況を見聞きすることができたことも勉強になりました。

 

 

直近の日本画展は2019年。京都の若手画家たちが「個性の尊重と創作の自由」を掲げて1918年に結成した「国画創作協会」の創立100年を記念し、当館と笠岡市竹喬美術館、和歌山県立近代美術館の公立3館で企画・巡回しました。土田麦僊が創立メンバーの一人であり、彼の代表作《舞妓林泉》(東京国立近代美術館蔵)が会場をひときわ華やがせました。ポスター・チラシにも麦僊の作品《朝顔》(京都国立近代美術館蔵)を使用しました。他にも、小野竹喬や榊原紫峰らの大作の数々が全国の美術館と所蔵家から出品され、当時の名作・話題作が揃い踏みした会場の眺めは壮観でした。

この会に出品された作品には、それまでの日本画表現にはなかった濃厚な色彩の風景画、退廃的な雰囲気を漂わせる女性像、細密描写を極めた生々しい人物画など、思わずぎょっとするような作品も含まれています。時代の流れを追う展示とは異なり、大正後期から昭和初期という一時期を切り取って作品を見ることによって、その時代の状況と、当時の画家たちの情熱と懸命さをまざまざと感じることができました。

 

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こうして振り返ると、展覧会を通して「日本画」という一つの分野と定期的に関わることで、屏風や軸といった独特の形状を持つ作品の取り扱いや展示方法を学芸員が学んでいくのはもちろんですが、「このタイプの作品をこのように展示すると、この空間ではこう見える」というような、施設としての経験値も上がっていくように思います。これらを未来の展覧会に還元することで、皆さまにより良い展示をご覧いただけるよう精進しなければと、この文章を書きながら改めて感じた次第です。

日本画材特有の美しい画面の質感、繊細な描写で写し取られた日本の四季や風景など、日本画というジャンル自体が好きだという方も多いでしょう。アンケートでも、日本画の展覧会を見たいというお声をよくいただきます。が、日本画は脆弱な材質でできており、長期間の展示には向きません。年間の展示可能日数も限られていることがほとんどです。さらに、屏風や掛け軸は露出展示ができず、ケース内での展示が基本です。そのため、会期設定、出品作品の選定、借用依頼、展示プラン(=展示費用)のどれを取ってもなかなかハードルの高い分野なのです。という訳で、次に万代島美術館で日本画展を開催することができましたら、くれぐれもお見逃しなく。たとえ所蔵品といえども、そう頻繁に展示できるとは限らないのです。また見る機会はある……などと思わず、ぜひお越しくださいますように!(主任学芸員 池田珠緒)

 

─お知らせ─

現在、長岡の近代美術館コレクション展で「近代美術館の日本画の名品 」を開催中(3月31日まで)。所蔵品展で述べた作家の作品も数点出品されています。
※詳細はhttps://kinbi.pref.niigata.lg.jp/tenran/collection-ten/collection-2023-4/