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学芸ノートB版 2024-2「開館20周年を振り返る⑦ 所蔵品展「ゴヤ版画展」「美術の森」

本館の近代美術館と共有する作品を用いたいわゆる「所蔵品展」を、開館以来開催してきたところですが、「コレナニ!?びじゅつ」展(2019年度)以降、開催から遠のいています。このことを、20年という時の流れによる状況変化として捉えることもできるでしょう。

開館にあたり新たに収集し、紹介に努めてきた重要な柱が「現代の美術」です。よって開館した当座は、その柱に連なる新収蔵品を中心に紹介してきたことは当然といえます。加えて、長岡市内の本館が年間を通じて所蔵品を紹介していることから、県央から離れた新潟市内の分館として、共有する所蔵品を紹介する役割が求められていたことも、所蔵品展の開催要因だったといえるでしょう。

ただ「所蔵品展」とはいいながら、広い展示室を全面的に使用したテーマ構成であり、実情は企画展の規模に相当します。もちろん作品の大半は本館からの輸送に限られるので、一般的な企画展に比べ経費は抑えられるのですが、それも予算をめぐる状況変化とともに負担の側面が増してきたことは否めません。

その一方で、当館で保管する「現代の美術」作品を、本館に移動して紹介する機会が次第に増えつつあります。そうしたことから、本館のコレクション展示室を中心にした両館の所蔵品の活用が、時の経過とともにかたちを変えながら進行しつつあると相対的に見ることもできるでしょう。

当ビル1Fの外看板

 

ここまで前置きが長くなりました。それでは、担当した所蔵品展の中から、いくつかご紹介しましょう。まずは、「ゴヤ版画展」(2007年12月8日~2008年1月27日)と「美術の森―小さな10の展覧会」(2008年2月2日~3月23日)です。「ゴヤ版画展」閉幕のわずか6日後に「美術の森」が開幕しているように、この年は2つの所蔵品展が連続しました。そこには両展を連続して観ていただきたいとの意図がありましたが、作品の輸送はもちろん、ポスターなどの印刷物と館内外の看板類を共通のものとして作成することで全体の経費を抑える現実的な理由もありました。

A3二つ折り展覧会チラシの中面

 

スペインの画家ゴヤ(1746~1828)は、また偉大なる版画家でもありました。それは、《ロス・カプリーチョス(気まぐれ)》《戦争の惨禍》《闘牛技》《妄》という四大連作版画集に凝縮され、美術の歴史上、彼を傑出した存在にまで高めることになりました。展覧会では、所蔵する《ロス・カプリーチョス(気まぐれ)》と《戦争の惨禍》の2つの連作版画集を一堂に展示し、版画を通してゴヤの芸術に触れていただく県内では初の試みでした。それぞれが80点で構成される版画集で点数が多いこと、さらに版画という素材と技法による展示上の制約(長期間の展示ができず短期間の展示替えなど)もあり、全点を一度に展示する機会は限られてしまうのが実情です。だからこそ、全体を一覧することによって初めて知り得る機会にもなるのです。さらに、ゴヤに着想を与えたフランスの版画家ジャック・カロ(1592-1635)の《戦争の惨禍(大)》連作などもあわせて展示しました。

ロシア・ウクライナ戦争、イスラエル・ガザ紛争を日々見聞する今日、ゴヤの芸術を振り返ることで、私自身その深奥なる哲理をあらためて思い知ることになりました。ここに、時代を超える普遍性を表現した芸術家と生み出された芸術作品の偉大さ、そして芸術の持つ力を再認識するのでした。

 

次に、「美術の森」に話を進めましょう。副題に「小さな10の展覧会」とあるように、展覧会は独立した10テーマによる構成でした。鑑賞者が様々なテーマに触れながら会場内を自由に進むことをイメージした、いわば「美術の森」をめぐるような願いから名づけたタイトルです。

そこで、当時在籍していた5名の学芸員がそれぞれ2つのテーマを設定し担当することにしました。所蔵品展とはいえ、全学芸員が企画し力を合わせた展覧会となり、さらに一部の作品は他館などからも借用しました。
テーマを列挙すると、「大正の心と美―彝と義郎」「母と子を生きる―哲三とコルヴィッツ」「止まった時間」「モダンといふ事」「“デッサン”~安井曾太郎」「劉生「草土社」の波及~新潟の若き洋画家たち」「物語のはじまり…宮田宏平《終りのない物語》」「「きれい」じゃない日本画…日本画にみる土着性・幻想性」「愛のかたち」「祈りのかたち―さまざまなキリスト教美術」というように、各学芸員の専門や関心領域から設定されたものでした。とはいえ、当館の位置する新潟市内ではそれまであまり展示される機会の少ない作品を中心にすることを共通の条件としました。ここにも、先述した分館としての役割意識を認めることができます。

展覧会チラシ裏面のイベント情報

 

会期中には、それぞれのテーマに即した美術鑑賞講座とギャラリートークを開催し、同様に各学芸員が担当しました。それは、展覧会チラシの裏面にあるとおりです。このように、開館5年目の最後を飾るにふさわしい所蔵品展だったと、今にして思える足跡だったといえます。
(専門学芸員 澤田佳三)